氷河期世代サラリーマンが脱サラして漫画家になるまで その7

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アトラスAM事業部は解散となり、私は30歳半ばにして世間の寒空に放り出された。
次の仕事を考えなければならない。

だがサラリーマンはなんだかなぁ、と思い始めていた。
とあるエライ人と酒を飲んでいたのだが、その人は中々豪快な人であり、平素「トップの格はクビにした社員の数で決まるのだ、がはは」とか言っていた。
ところが酔っ払ったその人は、私の目の前で泣きながら「俺がクビにした社員が毎晩夢枕に出てくるんだよぉ」と愚痴っていた。
どっちが本心なのかよくわからないが、サラリーマンと言うのは結局他人に自分を委ねる仕事だ。
上手く行っているうちはいいが、行かなくなるとお互いが傷つく。
なんかサラリーマンてめんどくさいなぁと思い始めてきていた。私は元来飽きっぽいのだ。

ゲーム作りという集団作業も何だか面倒だし、プロデューサーという自分の手を動かすと怒られる仕事もどうも性に合わない。
一番何だかなぁと思っていたのは、電話をする時に会社名を頭につけないと仕事にならないところだ。
「アトラスのhideです」といって電話すれば、相手は「いつもお世話になってますー」になるが、「hideです」とだけ言うと「は?」になる。
「自分の名前で勝負できないとかおかしくないっすか」と後年スペリオールの編集さんと話していたら、「自分の名前で勝負したくないから皆リーマンを選ぶ」と返される。
そういうものなのか。

というわけで、「他人に委ねず委ねられず」「個人作業で」「自分の手を動かせて」「自分の名前で勝負できる」仕事は何かなぁと考えて、「漫画家、かなぁ」の考えにいたる。

だが30歳半ばを過ぎて脱サラして漫画家を目指すとか、どう考えても頭悪すぎる
そこで新しい会社に入りつつ漫画家を目指すこととした。
そこは一部上場のデベロッパー(開発会社)最大手であり、アトラスより規模は大きい。
だがとにかく忙しい、忙しすぎる。
ピーク時は三連続徹夜、そうでなくても午前3時に仕事が終わって午前8時に出社するなんてのは日常茶飯事だ。
漫画を描く時間など到底無く、1年で1コマとか恐ろしいことになってしまった。
時間ばかりが経つ。そもそもデベロッパーと言うのは上流か下流かといえば下流の仕事だ。
上流と下流どちらが重要かと言えば答えは無いのだが、アトラスでの仕事はいわば上流であり、その仕事を10年以上してきた。
その後で下流の仕事というのは、ついていけない部分が正直かなり多かった。

そのうち大きなプロジェクトを任せられそうになる。
この日も終電帰りだ。プロジェクトを進めるために先方と開発を繋げて、ただ繋げると喧嘩になるからお互いが納得できるように言葉を翻訳して…
今日の打ち合わせでまたもや聞いた事の無いフレーズを聞いたからこのことについても調べて、SDKを確認して、契約書も読み返して…
その1秒後。
よし、会社辞めよう

これには自分で自分がびっくりした。
1秒前までは何とかプロジェクトを成功させようとしていた。会社を辞める気も毛頭無かった。
その1秒後に会社を辞める決意をしたのだ。
糸が切れるということはこのことか。
実際辞めるのはこのタイミングしかなかった。プロジェクトが本格的に立ち上がってから辞めるのはさすがにマズイからだ。
と自己弁護もしてみるが、どう考えても逃げであった。
けれど逃げないことも逃げだと思った。

このままこの会社に留まればそれなりに食べてはいけただろう。
だが会社はどうせ潰れる。世界は必ず終わる。変わらないものなど無い。
「チーズはどこに消えた」の本ではないが、目の前のチーズがなくなる前に新たなチーズを探さねばならないのだ。
たとえ探した先に何も無くても、現状に身を委ねた所でそのうち目の前のチーズは無くなるからだ。
目の前のチーズが段々と減っているのを見てみぬ振りしてその場に居続けチーズを食べ続けるのは、それもまた逃避では無いか(と自己弁護)。

というわけで、私は脱サラして漫画家になることを決めた。
働きながらだと、言い訳が出来てしまう。
今日はとても忙しかったから、人間関係に疲れたから、だから漫画は描かない。
そしてそのことについて怒る人は誰も居ない。だから怖い。
そんなことをしている間にあっという間に10年20年経ってしまう。
それ以前に会社が潰れるかもしれない。
だから脱サラした。
自分に一切言い訳できない状況に身を置くことで、果たして自分はどれほどの事が出来るのか試すことにしたのだ。

漫画家志望者はのんびりしていると10年経ってもデビューできないと聞く。
そこで私は短期間で漫画家になる、禁断の方法を選んだ。
誰にもオススメできない、禁断の方法だ。
それは…
[ 2018/06/16 04:20 ] 企画 エッセイ | TB(0) | CM(0)

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